JTC(大企業)のOJTが教える「社内作法」の構造 ──「あいつは、よくわかっている」の正体【全10回連載 vol.9】
──JTCのOJTが自動生成する「ローカル・プロトコル」の構造
JTC(Japanese Traditional Company:日本型大企業)において、長年使い古されてきた「現場のOJT」という言葉。
しかし、その現場で行われている「教育」の実態を客観的に見つめ直したとき、私たちはある構造的な事実に突き当たります。
本記事では、JTCのOJTの本質が、市場で通用する専門性の育成ではなく、閉鎖的な共同体を維持するための「同質化の仕組み」であるという実態を紐解き、組織の理不尽に悩む個人の心を解き放つための視点を提供します。
<筆者紹介>
東京大学建築学科卒業後、スーパーゼネコン、大手インフラ企業に勤務。
約40年にわたり、日本型大企業(JTC)という共同体の内部を観測する。
出世競争という制度的ゲームからは早期に身を引き、
組織の評価ではなく、個人の「実体」に投資する道を選ぶ。
Ⅰ.呪文の解読 ──「わかっている」という名の無理解
JTC(日本型大企業)の会議室や飲み会で、上司が部下を評して放つ「あいつは、よくわかっている」という言葉。
この一言には、市場価値としてのスキルへの言及は1ミリも含まれていません。
ここで「わかっている」とされている中身は、市場価値のある専門性ではなく、その会社という閉鎖的な「村(共同体)」を円滑に回すための次のような「ローカル・プロトコル」の習熟度です。
▢ 根回しの作法
誰に、どの順番で、どの程度の「事前の相談」が必要か。
▢ 忖度の精度
フォントの統一、余白の幅、「てにをは」の微修正。上司がどこまでこだわるかを事前に察知し、先回りして整える。
▢ 空気の解読
「反対はしないが、賛成もしない」という上層部の沈黙を、どう実務に反映させるか。
これらは、外部の人間から見れば「ノイズ」や「非効率」でしかありませんが、村の内部ではこれこそが「高付加価値な専門知」として君臨しています。
Ⅱ.JTC vs 欧米 ── OJTに隠された「目的」の決定的乖離
「OJT(On the Job Training)はどこの国にもある」という反論があるかもしれません。
しかし、ジョブ型雇用の欧米と、メンバーシップ型雇用のJTCでは、そのOSどころか「人間関係の前提」からして根本的に異なります。
JTCのOJTが「村の作法を手取り足取り叩き込む儀式」であるなら、欧米(ジョブ型)の現場において、日本の感覚で期待するような「丁寧な教育」はハナから存在しません。
その違いを以下の比較表にまとめました。
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| 比較項目 | 欧米(ジョブ型)の現場 | 日本(メンバーシップ型)のOJT |
|---|---|---|
| 教育の前提 | 放置(即戦力として契約履行を要求) | 手取り足取りの同質化(村への適応) |
| ノウハウの扱い | 個人の生存武器(出し惜しみ・抱え込みが基本) | 共同体の共有知(継承と作法の強要) |
| 指導者の立ち位置 | ライバル(教えるインセンティブがない) | 専門性なき先輩(社内政治の指南役) |
| 評価の基準 | アウトプットの質と契約履行 | 「わかっている」度合い(村の価値観への順応) |
欧米の現場において、職務記述書(Job Description)は「何をするか」を定義する契約書であり、会社や先輩は「未経験者を育てる学校や教師」ではありません。
成果主義と解雇の流動性が存在する環境下において、個人の持つ高度なノウハウや顧客リストは「自分の市場価値そのもの(生存のための武器)」です。
それを同僚や後輩に易々と教えることは、自分の代替品をつくり、自らの首を絞める自殺行為に他なりません。
そのため、ノウハウの出し惜しみや抱え込み(ブラックボックス化)は当然の防衛本能として横行します。
欧米におけるOJTとは、「手厚い実技指導」などではなく、自力で成果を出すために「他人のノウハウをいかに奪い取り、生存を勝ち取るか」という冷酷な適者生存のゲームなのです。
「村の作法」を強制するJTCと、「契約と成果」だけで繋がり教え合う文化のない欧米。
どちらが良い悪いの問題ではなく、両者には「教育」という言葉の裏に果てしない断絶が存在しています。
Ⅲ.教育という名の「選別」と「去勢」
JTC(日本型大企業)のOJTが、極めて高度な「リトマス試験紙(選別装置)」として機能している点を見逃してはなりません。
専門性なきジェネラリストが行う教育の本質は、スキルの伝承ではなく、「無意味な儀式に耐えうる個体の抽出」にあります。
不条理を論理で批判できる真の専門家は「使いにくい(わかっていない)」と断じられ、評価の対象から外されます。
結果として、村のOSに最適化された従順な者だけが残るのです。
──私が受けたOJTの一例:ローカル・プロトコルの典型例
私が大手インフラ企業に勤めていた頃、社内には「天皇」と呼ばれる絶対的な権力者がいました。彼に提出する説明資料を作成する上での作法は、次の通りでした。
・天皇が気に入る結論をまず先に書く
・BCG風に文字を大きく、内容は結論ありき
・ロジックより“ご機嫌取り”が優先
Ⅳ.まとめ:組織の病理を相対化し、自分軸を取り戻す
JTC(日本型大企業)のOJTが教える「社内作法」は、現状維持を優先する共同体の序列を守るための仕組みです。
このシステムがもたらす理不尽さや、スキルの非汎用性にあなたが悩む必要はありません。
職場の生きづらさはあなたの能力不足ではなく、組織が「機能体」としての役割を失った構造的なバグに過ぎないからです。
社内政治に追われる姿は、古い雇用OSが自動生成したマリオネットのようなもの。
「誰が正しいか」ではなく「村の作法」で回る世界を客観的に見つめ、不条理を相対化してください。
自らの「実体」を正しく見つめ直すことが、自分軸を取り戻す一歩となります。
この記事の全体像を確認する
本記事は、JTC(日本型大企業)という共同体の内部で40年間培った観測眼をもとに、日本の組織が抱える構造的課題を独自の視点で分析した「JTCの不都合な真実・全10回シリーズ」の一つです。他の視点を含めた総論は以下のまとめ記事をご覧ください。
― 日本型大企業という共同体を内部から記録する ―