JTC(大企業)の出世は「序列」で決まる ──出世競争から早めに降りた方がいい理由【全10回連載 vol.4】


──努力では超えられない壁があるなら、ゲームから降りるのがいちばん合理的だ。

「課長になるまでは、順調だったのになぁ。そのあとが・・・・ダメ😔」

「ライバルより、成果上げてるはずなのに・・・・」

「どうしてなんだろう?????」

そんなふうに感じている方、実は少なくありません。

JTC(Japanese Traditional Company:日本型大企業)の出世競争には、実力だけでは超えられない“見えない壁”が存在します。

そして、その壁に気づかず走り続けることで、キャリアも心もすり減ってしまうことも——。

本記事では、出世競争の実態と、なぜ“早めに降りる”という選択が賢明なのかを、経験者の視点から解説していきます。

<筆者紹介>

東京大学建築学科卒業後、スーパーゼネコン、大手インフラ企業に勤務。
約40年にわたり、日本型大企業(JTC)という共同体の内部を観測する。

出世競争という制度的ゲームからは早期に身を引き、
組織の評価ではなく、個人の「実体」に投資する道を選ぶ。


Ⅰ.JTCの出世競争~その実態とは?

JTC(日本型大企業)の最大の特徴は、次の2つです。

①限定された市場を独占していたり、競争力が突出した優良な経営資源※1 により、凡庸な社長でも経営が安定している。

 ※1 経営資源の中には、長期にわたる政官財の癒着によって築かれた利権ビジネスや下請けからの搾取システムも含まれます。

 ②最高経営責任者は、すごろく上がりのサラリーマン社長であり、起業経験のある経営のエキスパートではない。

こういった大企業は、以下の理由により閉鎖的かつ安定的な組織になります。

①外部との競争が少ない。

②任期中、大過なく過ごすだけのサラリーマン社長は、なんらリスクを取ることなく体制の現状維持に終始する。

日本企業は、新卒一括採用や終身雇用といった日本特有のメンバーシップ型雇用によって、多かれ少なかれ共同体的な性質を持っていますが、JTCではその傾向が前述の理由によりさらに強まっています。

共同体と企業のあるべき姿である機能体の違いを、堺屋太一の著書『組織の盛衰』を参考にまとめましたのでご覧ください。

スマホ閲覧時 表は左右にスクロールできます >>

組織形態 機能体(本来の会社) 共同体(JTCの実態)
組織の目標 目的の追求 居心地の追求
組織評価の尺度 目的達成力 結束力と仲間意識
理想の状態 最小コストで最大効果 公平性と安住感
個人評価の尺度 客観的評価による成果と能力 主観的評価による人気と人格

参考図書:堺屋太一 著『組織の盛衰』

共同体では、居心地を悪くするような競争や争いは避けられる傾向があり、そのため能力主義はあまり徹底されません。

結果として、出世のカギを握るのは、本人の努力ではどうにもならない「序列」です。

年齢や入社年、性別、出身大学※ はもちろん、文系理系の違いや学部、学科までが、「序列」を作るための「差」になっていることがあります。

※ 念のため補足しますが、学歴だけで一律に個人の能力を判断するのは、能力主義とは言えません。なぜなら、それは正解を早く見つけるといった試験テクニックという限られた能力だけで評価してしまうからです。私の経験でも、学歴と実際の業務遂行能力との相関はケースバイケースでした。

JTCでも”能力主義”による個人評価は行われますが、それは「序列」で決められた階級という限られた枠の中にとどまります。

しかも、個人評価の尺度は、「客観的評価による成果と能力」ではなく、上司などの「主観的評価による人気と人格」です(前出の「機能体と共同体の比較表」を参照)。


Ⅱ.日本人が「序列」に従う文化的な背景 ──『菊と刀』より

日本人の思考や行動様式を語る上で欠かせないのが、文化人類学者・ルース・ベネディクトの名著『菊と刀』に描かれた文化分析です。

同書では、日本社会における「階級序列」と「競争の回避」について、以下のように分析されています。

【第四章:明治維新 より】

したがって日本人は、たえず階級序列に関連づけてその世界に秩序をあたえる。家庭や個人関係においては、年齢や世代、性別、階級が適切な行動を規定する。政治や宗教、軍隊、産業界においては、慎重に領域が階級に分別され、そのなかでは貴賤の別なく、自身の権利の範囲を踏み越えればかならず罰を受ける。『其ノ所』が守られているかぎり、日本人は異論を唱えることなく日々を営む。安全だと感じるのだ。

【第八章:汚名をすすぐ より】

このように直接の競争を最小限に抑えることは、日本人の生活全般に見受けられる。アメリカ人にとっては同僚との競争で成功を収めることが至上命令になるが、『恩』に基づく倫理体系には競争の入り込む余地はほとんどない。日本の階級序列のシステム全体が、そのなかにあるこまごまとしたすべての約束事と相まって、直接的な競争を最小限に抑えるのである。

このように、日本人は古くから「自分の身の丈や範囲(其ノ所)」を守り、直接的な競争を避けることで安全を感じる文化を築いてきました。

JTCにおける「能力主義よりも序列主義が優先される仕組み」や「過度な成果競争を嫌う空気感」は、まさにこの歴史的・文化的な背景に深く根ざしていると言えます。

直接的な競争を排し、あらかじめ決められた「序列」を受け入れることこそが、組織全体の安住感を生み出す日本の伝統的な知恵でもあったのです。

COLUMN

──序列意識なしには暮らせない国・日本

序列意識は、日常のあらゆる場面に深く根付いています。たとえば、飲み会の席順ひとつでも、誰がどこに座るかあれこれ迷いますし、敬語の使い方ひとつで「この人、わかってるな」とか「ちょっと非常識かも…」なんて評価が変わります。

先輩後輩の関係も、学校や職場だけでなく、趣味のサークルや地域の集まりでもしっかり機能しています。日本企業の名刺は、序列を明確にして、誰がどう振る舞うべきかを示すためのカードなのです。


Ⅲ.出世競争は早めに降りた方がよい理由

出世競争を降りるとは、自分の努力ではどうにもならない「序列」を超えてまで出世を目指さないということです。

「序列」を飛び越えて出世を狙うのは、並大抵の努力では難しく、リスクもかなり大きいと言えるでしょう。

せいぜい自分の階級の枠内での出世競争(実態は上司への忖度合戦ですが)に励んでください。

転職先の大手インフラ企業で、建築系統の「序列」が低いことは事前にわかっていたつもりでしたが、実際には想像以上に低いものでした。

東大卒の肩書きも、建築系統という枠の中でしか通用しませんでした。

こうした現実を目の当たりにすると、「序列」を超えて戦うことの難しさを痛感します。

40代にもなると、自分の階級や階級内でのポジションもはっきり見えてきます。

頭を切り替えて、少しずつ会社の束縛から解放され、自分の人生を楽しみ始めましょう。

私は40代後半に出世競争から降りましたが、自分の「序列」の低さに気付くのが遅すぎたと感じています。

出世競争は早めに降りた方がよい理由は、無駄な努力でエネルギーを消耗せず、その分を自己投資に充てられるからです。

せっかくJTCに就職できたのですから、そのメリットを最大限に活かして人生を楽しんだほうが得です。

COLUMN

── 社内競争の苦しみを長引かせる「希望」という麻薬

なぜ私たちは、これほどまでに「出世教」の呪縛から逃れられないのでしょうか。その根底には、会社にしがみつき続けさせる「希望」という名の麻薬が存在します。

哲学者ニーチェは『人間的、あまりに人間的』の第71アフォリズムで、「希望は禍の中でも最悪のものである。人間の苦しみを長びかせるのであるから」と看破しました。

「いつか報われる」「まだ挽回できる」という淡い期待こそが、不毛な社内競争の苦しみを長引かせ、貴重な時間と自我をすり潰していく真犯人です。この苦しみを断ち切るには、中途半端な希望を自ら捨て去り、信仰を終わらせる決断こそが不可欠なのです。


Ⅳ.まとめ:不毛なゲームから降り、個人の「実体」に投資せよ

JTC(日本型大企業)は、本来あるべき姿である「機能体」とはかけ離れた「共同体」と化しています。

メンバー同士の競争を避ける傾向がある共同体は、能力主義ではなく序列主義に支配されています。

結果として、社員は年齢や入社年、性別、出身大学はもちろん、文系理系の違いや学部、学科などによって階級分けされ、その枠の中で競い合うことになります。

以上が、JTCの出世競争の実態です。

自分の努力ではどうにもならない「序列」を超えてまで出世を目指すことは避けて、せっかくJTCに就職できたのですから、そのメリットを最大限に活かして自己投資に励んだ方が得です。

まだ少し先の話ですが、この選択は定年後の生活にもとても良い影響をもたらします。

COLUMN

──死ぬ瞬間の5つの後悔とは?

人生最後の時を過ごす患者たちの緩和ケアに携わり、たくさんの人を看取ったオーストラリアのブロニー・ウエアさんの著書『死ぬ瞬間の5つの後悔』は、死を間近に控えた人々が口にした後悔の中で多かった5つの事例を挙げています。

1.他人が自分に期待する人生ではなく、自分自身に正直な人生を生きる勇気があればよかった

2.あれほど働かなければよかった

3.自分の気持ちを率直に表現するだけの勇気があればよかった

4.もっと友達づきあいをしておくべきだった

5.もっと幸せな人生を送ればよかった

Coming Soon — 以下の記事は準備中です。公開まで少しお待ちください。

この記事の全体像を確認する

本記事は、JTCにおける「不条理な出世メカニズム」の構造を解き明かす全10回シリーズの一つです。他の視点を含めた総論は以下のまとめ記事をご覧ください。

▶ 【全10回連載まとめ】なぜ『出世は実力では決まらない』のか? ── JTCの「時代遅れのOS」が引き起こす構造的悲劇

※筆者について

本稿は、東京大学建築学科卒業後、スーパーゼネコンおよび大手インフラ企業にて約40年勤務した筆者の実体験と観測にもとづいている。

― 日本型大企業という共同体を内部から記録する ―